「起業について相談したいと思っても、どんな人が聞いてくれるのだろうか…」と不安に思ったことはありませんか?そんな不安を少しでも和らげようと、「みやぎの創業支援者インタビュー」では、宮城県各地で起業家の支援を行う方々の人物像を明らかにしていきます!
第5回目となる今回は、仙台市のコワーキングスペース『enspace』でコミュニティマネージャーを務める可野沙織さん。にこやかで柔らかな印象を持つ可野さんに、その胸に秘める熱い思いを語っていただきました。
まずはじめに、自己紹介をお願いします。
私はもともと10年以上カスタマーサポート(以下CS)として、IT企業の人材・採用育成、サービス運用の構築や改善などに取り組んできました。エンスペース株式会社にジョインしたのは、2018年の1月。たまたま参加したバーベキューのイベントで弊社の代表と出会ったのがきっかけで、「きみイメージにぴったりだ!」と声をかけられたんです。それまで私にはコミュニティマネージャーの経験はありませんでしたが、代表曰く「CSとはお客様対応という本質が同じ」であると。また、東北出身のアクティブに活動できる女性という条件にも該当していたようです。enspaceのオープンは2018年の4月なので、その直前にジョインしたかたちになります。

<可野沙織(プロフィール)> ※エンスペース公式サイト参考
IT企業にて様々なクライアントのCSセンターを立ち上げ、人材採用から運用構築・サービス改善を責任者として従事。人材育成や組織マネジメントの経験を活かし、宮城県内を中心に若者向けのコミュニティ活動も行っている。エンスペース株式会社では、新規事業であるenspaceのコミュニティマネージャーとして参画。
早速ですが、enspaceはどのような施設で、可野さんはどのようなことに取り組んでいますか。
enspaceは、コワーキングスペース・シェアオフィス・レンタル会議室というハードサービス、また起業・創業支援や雑務のサポート、あるいは交流イベントの企画・運営といったソフトサービスを提供しています。起業家や個人事業主の方、仙台や東北へ進出を目指す中小企業・大企業の方など、今や宮城に限らず東北各県からも仙台で活動する拠点としてご活用いただいています。

私はコミュニティマネージャーとして、入居者の方々が働きやすい環境づくりを行っています。施設の運用をベースに、常に利用されているお客様が何を求めているのかキャッチアップして、時に人や企業のマッチング、時にメディアへの広報。時にお客様が気晴らしに行う雑談やゲームの相手になるなど活動としては多岐に渡り、基本的には裏方としてサポートする時間が長いと思います。
enspaceの魅力を教えてください。
お客様は、スタッフなり他のお客様なり「とりあえずenspaceに来たら誰かしらいる」とおっしゃってくれていますね。私はシェアオフィスやコワーキングスペースといった場所があっても、そこに誰もいなければ意味を成さないと思っています。人がいる空間にこそ価値が生まれると思うので、いつ誰が来ても対応できるよう、まずはバラエティに富んだスタッフを揃えるようにしています

また、そんな施設運営の中心を担うスタッフに、学生を多く採用していることも弊社の特徴です。屈託のない振る舞いを見せる彼らが普段の日常やイベントでお客様とのコミュニケーションを円滑にしてくれて、それによってお客様同士にも会話や交流が生まれるんです。すると、実際にenspaceのコミュニティ内でイベントを共催したり、協業のプロジェクトに従事したりするお客様も増えてきました。ビジネスにおいては「何をするか」よりも「誰とするか」が大事だと思うので、enspaceはそれぞれの“人となり”を知るというきっかけづくりを意識していますし、その中で学生たちは重要な役割を担ってくれていると思います。
起業支援において、可野さんが普段から心がけていることはありますか。
常にお客様の言動に気を配り、その人やタイミングに応じた適切なサービスを提供するということです。先述の通り、私たちが担っているのは起業家の方の環境あるいは心を支援することで、例えばビジネスにおける専門性の高いアドバイスや具体的な資金の援助は行えません。その分、何気ない日常での会話や仕草をキャッチアップして、お客様がスムーズなステップを踏めるよう、適切な人脈や制度を提供できるように心がけています。
そのために、毎日お客様との挨拶やコミュニケーションは欠かしません。声や表情で「今日は調子良さそうだな」「事業が順調じゃないのかな」などと、ある程度の状態を認知できるからです。何かしらの問題を抱えていると、やっぱり誰でも多少なりとも所作や顔に出るんですよね。本人が「事業は上手くいっている」と言っていてそれは確かでも、実際は人間関係のトラブルが起きているとか。これに関しては、1人で200人ほどの社員を取り仕切っていたCS時代の社内マネジメントの経験がものすごく活きていて、私はお客様のちょっとしたシグナルを見逃しません。また、私が感じたことや得たその情報はスタッフ内で共有し、会社全体でより良いコミュニティの実現を心がけています。
なぜ、そこまで熱心に利用者と向き合えるのでしょうか。
お客様には、enspaceで心理的安全性を確保してもらいたいと考えているからです。私の父親も起業していましたが、起業家って調子が良い時は仲間やメディアに取り上げてもらえるなど、みんなにチヤホヤしてもらえます。でも、調子が良くない時は周りの人がどんどん手を引いていき孤独になっていく。これって、トラウマになるくらい辛いものなんですよね。だからenspaceは、事業が上手くいかず停滞している方にこそ、例えば愚痴を聞いたり笑い話をしたり、起業家の仲間を集めたり。私は、せっかく「頑張ろう」と思ってここに来てくれた人の、心の炎を消さない役割を担っているのだと思います。enspaceを通して、「失敗しても許される社会がある」ということを体現したいですし、環境や心が整っていれば、起業家の皆さんは自分たちで答えを見つけられると信じているので。とにかく、起業家を一人にしてはいけません。

とても素敵な考え方です。可野さんがいれば、誰もが安心して起業に取り組めますね。
ありがとうございます。ただ、あまりにも思いやりのないコミュニケーションをするような人に対しては、厳しいことも言います。起業家の方の中には周囲との連携を図れない方も多少いて、むしろ自分の社会性のなさに胸を張る方もいます。確かに起業家としたらそれもひとつの魅力なのかもしれませんが、それでも私は、少しでも素養があるならちゃんと仲間を作ってほしいと考えています。そのため「ちょっとその行動はおかしいですよね」「まずはあなたが周りの人を受け入れてください」など、伝えるべきことはハッキリ言います。もともと力がある起業家の方だからこそ、そこに気づいて自分で直して、社会に馴染んでほしいんです。だから、特に若い起業家の方々にとって、私は自分のことを“怖いお母さん”だと思っています。スタッフにはみんなで優しい環境を整えようと言っていますが、優秀な方が社会に受け入れられない様子を見ると、つい「もったいない!」と思ってしまうんですよね。(笑)
コミュニティにおいて大切な役割を担っているんですね。enspaceがある仙台市についてはどうお考えですか。
起業家同士の横のつながりが深い仙台は、とても恵まれた環境だと思います。コミュニティもコンパクトですし、起業家に対する理解や支援の気持ちを持っている人も少なくありません。プレーヤー数をもっと増やさなければならない点には課題を感じますが、関東に比べたらメディアへ露出する機会や、それらに伴うメリットは多くあります。もちろん私たちだけでなく、起業支援を提供している企業さんも多数いらっしゃいますからね。
もし漠然と起業を検討している方がいたら、「仙台なら死にはしないから大丈夫」「ご飯は食べていけるよ」と伝えたいです。ある程度東京で成功している人であれば、なおさら地方で起業した方がいいのではないでしょうか。その上で大事なメンタル面は私たちが支援しますので、安心してこちらに来てほしいなと思いますね。
あとは、仙台に限らず宮城でもっと起業する人が増えたらいいなと思っています。コワーキングスペースが多く、ビジネスチャンスを広げやすい環境だと思いますよ。また、人生の手段の一つとして起業があるということを知らない人は、まだまだ世の中に多いですよね。私の地元の登米市にも、きっとそういった人がいるはずなんです。だからこれからは、起業することは簡単だよと、でも継続することは難しいからそこをしっかり考えようねと、そういった活動やメッセージを広めていきたいと思っています。
ありがとうございます。それでは最後に、改めて伝えたいことはありますか。
私自身、起業に関して多くのものを持っているわけではないと思いますが、これからも日常のコミュニケーションを大切にして、お客様が欲しているものや心地の良い環境を提供していきます。一度知り合った人を、私は決して見放しません。大した支援はできないかもしれませんが、悲しい目に遭うことを許したくありませんから。
enspaceにとって、主役はあくまでお客様です。実際に、enspaceは私たちが取り組みたいサービスを提供するというより、お客様が求めるものに沿ってサービスを変化させてきました。これからもオープン当初に掲げた「地域に根付いて愛される空間」を体現できるよう、努めていきたいと思っています。
